国連・世界共通 · 安保理の採決
拒否権と棄権は同じ「賛成しない」?国連安保理の採決を数字と実例で読む
14か国が賛成しても決議案が採択されないことがあります。一方、常任理事国が棄権しても採択は可能です。賛成票の条件、手続事項の例外、実際の採決を順に確認し、「反対」「棄権」「支持」の違いを読み解きます。
事実、各国の主張、編集部の解説を区別して紹介します。記事の更新日は資料確認日です。速報や現在の戦況・選挙予測を保証するものではありません。
「賛成しない」の中に、違う働きの投票がある
国連の安全保障理事会、安保理のニュースでは「米国が棄権」「ロシアが拒否権を行使」といった言葉を見かけます。どちらも決議案に賛成していないのだから、結果は同じではないか。そう考えると、採択された理由と、されなかった理由を読み違えてしまいます。
通常の実質事項の採決では、常任理事国の反対票が採択を阻みます。一方、常任理事国が棄権しても、必要な賛成票があれば採択は可能です。安保理の公式解説は、この違いを明示しています。[1]
さらに、反対票を投じた国が常任理事国なのか、非常任理事国なのか、採決する事項が手続事項なのかによっても結果は変わります。賛成と反対の合計だけを見ても、仕組みは分かりません。
この記事では、採択のルールを架空の投票表で確認した後、2024年と2022年の実際の採決に当てはめます。特定の国の立場を支持するための説明ではなく、ニュースで書かれた投票と結果を自分で確かめるための読み方です。
15か国が一票ずつ持つが、反対票の働きは一律ではない
安保理は15か国で構成されます。常任理事国は中国、フランス、ロシア、英国、米国の5か国。非常任理事国は10か国で、総会が選び、任期は二年です。国連図書館の構成国ガイドで確認できます。[2]
国連憲章第27条では、各理事国に一票があり、手続事項の決定には9か国の賛成が必要とされています。それ以外の事項については、9か国の賛成に加え、常任理事国の同意に関する条件が置かれています。実際の運用では、常任理事国の棄権は採択を阻む反対票とは扱われません。[1]
| 確認する点 | 手続事項 | 通常の実質事項 |
|---|---|---|
| 必要な賛成票 | 9票以上 | 9票以上 |
| 常任理事国の反対票 | それだけで採択を阻まない | 採択を阻む拒否権となる |
| 常任理事国の棄権 | 賛成票には入らない | 賛成票には入らず、拒否権にもならない |
拒否権は、反対票を二票、三票として数える仕組みではありません。賛成票が十分にあっても、採択のための別の条件を満たさなくする働きです。「一国が多数を止める」という結果は、票の重みを足し算するだけでは説明できないのです。
非常任理事国の票も採決に関わります。9票という条件は常任理事国の5票だけでは満たせません。拒否権の有無だけに注目すると、必要な賛成を集めるための他の理事国の役割を見落とします。
同じ14票の賛成でも、残りの一票で結果が変わる
次の表は、すべて通常の実質事項を想定した架空例です。各行の賛成・反対・棄権は合計15票で、欠席や投票不参加はない設定です。
| 例 | 賛成 | 反対 | 棄権 | 反対・棄権した国についての条件 | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 14 | 0 | 1 | 常任理事国一国が棄権 | 採択できる |
| B | 14 | 1 | 0 | 常任理事国一国が反対 | 採択できない |
| C | 9 | 1 | 5 | 反対は非常任理事国、常任理事国の反対なし | 採択できる |
| D | 8 | 0 | 7 | 常任理事国の反対なし | 賛成不足で採択できない |
AとBは、賛成票が同じ14票です。それでも、常任理事国の棄権と反対では結果が変わります。Cは全会一致でなくても採択できること、Dは拒否権がなくても採択に届かないことを示します。ルールの照合先は、国連図書館の投票ガイドです。[3]
結果を判断する順序としては、まず採決の種類、次に賛成が9票以上あるか、そのうえで実質事項なら常任理事国の反対があるかを確認します。「反対が一票だから否決」「棄権が多いから採択できない」と、票数だけで決めることはできません。
棄権が多いと政治的には合意の弱さが議論されるかもしれません。しかし、政治的な評価と、決議案が採択の条件を満たしたかという判定は違います。この表から、各国がなぜその票を選んだかまで推定することはできません。
棄権は賛成を一票増やさないが、拒否権も使わない
棄権した常任理事国を「事実上賛成した」と言い換えると、投票記録から離れてしまいます。棄権は賛成ではありません。賛成の数は、棄権した国を足さずに数える必要があります。
前の架空例Aでは、残り14か国が賛成しているため、常任理事国一国が棄権しても9票の条件を満たします。もし賛成が8票しかなければ、同じ常任理事国が棄権しても採択には届きません。棄権そのものが決議案を可決にするわけではないのです。
また、「採択を阻まなかった」と「決議案のすべてを支持した」も同じではありません。ある国が文言の一部に異論を持ちながら棄権することはあり得ます。理由を知るには、その国の投票説明を読み、何への異論なのかを確かめる必要があります。
ここには二つの読み方があります。一つは、投票の種類が採択の条件にどう働いたか。もう一つは、その国がなぜ賛成、反対、棄権を選んだかです。前者は規則と票数で確認でき、後者は発言や文書が必要です。
ニュースの見出しを読み返すときも、「棄権して採択を可能にした」という結果の説明から、決議内容への全面的な支持まで一度に進まないようにしましょう。投票と動機を分けることで、異なる報道のどこが違っているかも見えやすくなります。
2024年の決議2728では、米国が棄権して採択された
2024年3月25日、安保理はガザに関する決議2728を、賛成14、反対0、棄権1で採択しました。棄権したのは米国です。採決の数字と結果は、国連の公式会議報道で確認できます。[4]
この例では、常任理事国である米国が賛成していなくても、必要な賛成票があり、常任理事国の反対票はありませんでした。「五つの常任理事国が必ず全部賛成しなければ採択できない」という説明では、この結果を説明できません。
ただし、採択の仕組みを確認したことと、その決議の各規定の法的解釈、現地での実施、各当事者の対応を評価することは別の作業です。この記事がこの実例で扱うのは、採決がどう成立したかという点です。
読者が原資料へ戻るときは、決議番号の「2728」と年の「2024」を一緒に使ってください。同じ紛争に関しても、複数の決議案や決議があり、別の採決の数字を並べてしまうことがあります。
また、後日の政策や交渉の変化を、この一回の棄権だけで説明することはできません。「この時点、この文書への投票だった」という範囲を保つと、過去の採決を現在の立場にそのまま置き換えずに読めます。
手続事項なら、常任理事国の反対があっても採択できる
安保理の採決には、会議の進め方などに関する手続事項があります。国連図書館は、手続事項では9票の賛成が必要で、常任理事国による拒否権は適用されないと説明しています。[3]
2022年2月27日、安保理はウクライナ情勢をめぐり、国連総会の緊急特別会期を招集する決議2623を採択しました。賛成11、反対1、棄権3。反対したのはロシア、棄権したのは中国、インド、アラブ首長国連邦でした。国連の公式会議報道で確認できる採決です。[5]
この採決では、常任理事国のロシアが反対しても採択されています。緊急特別会期の招集という手続の決定には、通常の実質事項の拒否権の条件を当てはめないためです。
したがって、「常任理事国が反対した」という情報だけで、拒否権が行使されたと書くのは正確ではありません。何の決定を採決したのかまで確かめる必要があります。文書に「決議」と付いているだけでも、採決の種類は判断できません。
これは、決議案の中身を何でも手続事項に言い換えれば採択できる、という意味ではありません。特定の採決の性質は、公式記録や安保理の実務資料に戻って判断します。緊急特別会期の招集と、その後に総会が採決する文書も、異なる機関による別の決定です。
賛成が足りない場合と、拒否権で止まる場合を分ける
決議案が採択されなかったときは、結果の一言より、議長がどう説明したかに注目すると理由を確認できます。国連図書館の投票ガイドには、採択、常任理事国の反対による不採択、必要な賛成票に届かない不採択、手続事項の採択が区別されています。[3]
架空の実質事項で賛成8、反対0、棄権7なら、反対票がなくても9票の条件を満たしません。「誰も拒否権を使わなかったのに、なぜ採択されなかったのか」という疑問は、賛成票の不足を見ることで解けます。
賛成14、反対1で、その一票が常任理事国なら、賛成票の不足とは別の理由で採択されません。多数の支持があるのに採択できなかったというニュースと、支持が採択条件に届かなかったというニュースを、一つの「否決」にまとめると背景が見えなくなります。
国連図書館には、拒否権が使われた採決の一覧もあります。文書番号、日付、議事録などから確かめる入口として利用できます。[6]
なお、一覧に載るのは、記録された採決です。採決前の交渉で案が修正されたり、提出が見送られたりしたかどうかは、その投票表だけでは分かりません。「拒否権の件数」だけで、国連での交渉全体や各国の影響力を測ったつもりにならないことも大切です。
棄権、欠席、投票不参加は、記録でも区別される
国連の投票データでは、賛成、反対、棄権に加え、投票不参加を区別する表記があります。国連図書館の案内では、Yは賛成、Nは反対、Aは棄権、NPは投票不参加です。会議の議事録が、公式な投票情報の出発点になります。[3]
| 記録で確認するもの | この記事での読み方 |
|---|---|
| Y、賛成 | 必要な賛成票に数える |
| N、反対 | 常任か非常任か、手続か実質かも確認する |
| A、棄権 | 賛成とは数えない。常任の棄権も拒否権ではない |
| NP、投票不参加 | 棄権へ勝手に置き換えず、議事録を確認する |
ここまでの架空表では、説明を絞るため、15か国すべてが賛成、反対、棄権のいずれかを選ぶ設定にしました。実際の記録を読むときは、空欄や投票不参加をその設定に無理に入れないでください。
また、国連憲章第27条には、第6章と第52条3項に基づく決定では紛争当事国が投票を棄権するという規定もあります。これは、常任理事国が任意に棄権した場合の効果とは別の論点です。[1]
「その国が関係する紛争だから、あらゆる採決で拒否権を使えない」と一般化することはできません。個別の事案での規定の適用や当事国の位置付けまで判断するには、該当する憲章の章と実務を検討する必要があります。この記事はその法的判断を行うものではありません。
多数決だけではない仕組みを、どう評価するか
安保理の構成は、最初から現在と同じではありませんでした。当初は11か国で、常任5、非常任6でした。非常任理事国を増やし、15か国とする憲章改正は1965年8月31日に発効しています。国連図書館の構成国ガイドが、この変化を記録しています。[2]
制度の評価では、国の数を増やすこと、必要な賛成票を変えること、常任理事国の反対票の扱いを変えることは、別々の変更です。たとえば非常任理事国が増えても、拒否権のルールがそのままなら、多数の賛成を一国の反対で止められる構造は残ります。
一方、拒否権をなくすことを論じるなら、採択しやすさだけでなく、その決定に各国がどう協力するかという問いも出てきます。どの制度が望ましいかの評価と、現在の採決が規則に沿っていたかの確認を混ぜない方が、議論は整理しやすくなります。
「国連が賛成した」という大きな言い方にも注意が必要です。安保理の15か国の採決と、国連総会の採決は同じものではありません。どの機関で、どの文書に対して、どのルールで決定したのかを書くことが、制度の限界を論じる前提になります。
採決の見出しから、原資料へ戻るための確認表
次の順序で読むと、拒否権と棄権を取り違えにくくなります。
- どの機関か。安保理と総会を区別する。
- 何の文書か。決議案、採択された決議、声明を混ぜない。
- 何を決める採決か。手続事項か、実質事項かを確認する。
- 賛成は何票か。9票という条件に届いているかを見る。
- 反対したのは誰か。常任理事国の反対と、それ以外の反対を分ける。
- 議長は結果をどう述べたか。採択、不採択の理由を議事録で確かめる。
棄権の理由や決議の効果が知りたいときは、その後に投票説明や決議本文へ進みます。投票表だけで、全面的な支持、政策の転換、現地での実施まで結論づけない。これだけでも、同じ採決を扱う記事の読み比べがしやすくなります。
資料確認日は2026年10月13日です。2022年と2024年の例は過去の採決で、現在の紛争の状況を示すものではありません。公的資料を基にAIが執筆し、同じAIが出典・票数・表現を確認しました。第三者による独立監査や個別事案の法的審査ではありません。
SOURCES & CONTEXT
出典・一次資料
- 国連安保理:Voting System(憲章第27条、棄権、拒否権)
- 国連ダグ・ハマーショルド図書館:Security Council Membership(構成と1965年の拡大)
- 国連ダグ・ハマーショルド図書館:Voting Information(賛成条件、手続事項、議事録の読み方)
- 国連公式会議報道:SC/15641、2024年3月25日(決議2728の採決)
- 国連公式会議報道:SC/14809、2022年2月27日(決議2623の採決)
- 国連ダグ・ハマーショルド図書館:Vetoes(拒否権一覧と公式記録への入口)
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